NexoValue

薬剤師のキャリアと、薬局・医療・介護の事業承継を実務目線で解説するメディア

株式譲渡契約書の注意点|ひな形にない重要条項と作成手順

執筆者:

カテゴリ:

【広告表示について】当サイトはアフィリエイト広告により運営しています。本記事には広告リンクは含まれていません。広告を掲載する記事には冒頭にその旨を表示します。

結論から先に

この記事で分かること

  • 株式譲渡契約書とは?M&Aにおける役割
  • 株式譲渡契約書のひな形と基本的な記載事項
  • 【重要】トラブルを防ぐために追加すべき条項と注意点
  • 株式譲渡契約書の作成から締結までの流れ
  • 株式譲渡契約書と印紙税について

株式譲渡契約書とは?M&Aにおける役割

株式譲渡契約書(SPA:Stock Purchase Agreement)とは、会社の株式を売り手(株主)から買い手へ譲渡する際に、その取引条件を定めて締結する契約書です。 中小企業のM&Aでは、会社の経営権そのものを移転させる手段として株式譲渡が広く用いられるため、この契約書は取引の根幹をなす最も重要な書類といえます。

契約書には、譲渡する株式の数や価格といった基本的な条件のほか、取引実行日までの当事者の義務、万が一問題が発覚した場合の責任の所在などを詳細に定めます。 これにより、当事者間の権利と義務を明確にし、将来起こりうるトラブルを未然に防ぐ役割を果たします。 特に、買い手はデューデリジェンス(買収対象企業の調査)では把握しきれないリスクを契約条項でカバーしようとし、売り手は譲渡後の過度な責任を回避しようとするため、双方にとって交渉の要となります。

株式譲渡契約書のひな形と基本的な記載事項

株式譲渡契約書には、取引の基本情報を定めるために、一般的に以下の項目が記載されます。中小企業庁もM&Aの推進にあたり、契約書のひな形を公開しています。

  • 譲渡の合意:売り手が買い手に特定の株式を譲渡し、買い手がこれを譲り受ける旨の合意。
  • 対象株式:譲渡の対象となる会社名、株式の種類(例:普通株式)、株式数。
  • 譲渡価額と支払方法:株式の譲渡代金総額、1株あたりの価格、支払いの時期や方法(例:銀行振込)。
  • クロージング(譲渡実行):株式の引き渡しと代金の支払いを実行する日(クロージング日)と、その際に引き渡される書類(株主名簿記載事項証明書など)。
  • 株主名簿の名義書換:譲渡後、会社に対して株主名簿の書き換えを請求する手続きについて定めます。これが完了しないと、買い手は株主としての権利を会社や第三者に対して主張できません。
  • 公租公課の負担:契約書作成や取引にかかる費用の負担者を定めます。
  • 準拠法・合意管轄:契約に関する紛争が生じた場合に、どの国の法律に基づいて解決し、どの裁判所で裁判を行うかを定めます。

ひな形だけでは不十分な理由

インターネット上や公的機関からひな形は入手できますが、それをそのまま利用するのは危険です。M&Aは一社一社状況が異なり、個別のリスクや取引の実態に合わせて契約内容を調整する必要があるからです。 特に、後述する「表明保証」や「補償」に関する条項は、買い手のリスク回避と売り手の責任範囲を画定する上で極めて重要であり、交渉を通じて慎重に設計されるべき項目です。

【重要】トラブルを防ぐために追加すべき条項と注意点

基本的な条項に加え、M&Aの実務では、将来の紛争を避けるために以下のような詳細な条項を定めます。

表明保証条項

表明保証とは、売り手が買い手に対し、対象会社や事業に関する特定の事柄(財務、法務、税務など)が、ある時点において真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証する条項です。 買い手は、この表明保証を前提に買収価格を算定し、買収の意思決定を行います。 もし表明した内容に誤り(表明保証違反)があれば、買い手は契約解除や損害賠償請求ができます。

主な表明保証の項目には以下のようなものがあります。

  • 株式の正当な権原:売り手が対象株式を完全に所有し、譲渡する権限を持っていること。
  • 財務諸表の正確性:開示された財務諸表が会計基準に準拠し、会社の財政状態を正しく示していること。
  • 法令遵守:事業に必要な許認可を全て取得しており、重大な法令違反がないこと。
  • 訴訟の不存在:会社の経営に重大な影響を及ぼす訴訟や紛争が存在しないこと。
  • 簿外債務の不存在:財務諸表に記載されていない債務(未払いの残業代など)が存在しないこと。

売り手としては、表明保証の範囲を「知る限り」に絞ったり、開示済みのリスクを除外したりするなど、責任範囲を狭める交渉が重要になります。

補償条項(損害賠償)

表明保証違反やその他の契約違反によって当事者が損害を被った場合に、相手方がその損害を補償(賠償)することを定める条項です。 実務では、単に「損害を賠償する」と定めるだけでなく、買い手と売り手の公平性を保つため、以下のような具体的な条件を設定することが一般的です。

  • 補償の上限額:賠償額の総額を譲渡代金の範囲内に収めるなど。
  • 補償の請求期間:クロージング後1年〜3年など、請求できる期間を区切る。
  • ミニマム・バスケット:一定額(ミニマム)に満たない少額の損害については請求できない、または、損害額の合計が一定額(バスケット)を超えた場合に初めて請求できる、といった定め。

競業避止義務条項

売り手(特に創業オーナー)が、会社を売却した後に、その会社の事業と競合する事業を一定期間・一定地域で行うことを禁止する条項です。 買い手にとっては、買収した事業の価値(のれん)が損なわれることを防ぐために不可欠な条項です。 事業譲渡の場合は会社法で原則20年の競業避止義務が定められていますが、株式譲渡の場合は法律上の規定がないため、契約書で個別に定める必要があります。 期間、地域、対象となる事業の範囲が不当に広範であると無効と判断される可能性もあるため、合理的な範囲で設定することが重要です。

役員の引継ぎに関する条項

M&A後も売り手である旧経営者が一定期間、役員や顧問として会社に残り、事業の引継ぎに協力することを定める場合があります。 その場合の役職、業務内容、期間、報酬などを明確にしておきます。逆に、旧経営者がM&Aを機に退職する場合は、その旨と退職時期、経営者保証の解除手続きについても定めておく必要があります。

株式譲渡契約書の作成から締結までの流れ

株式譲渡契約書は、一般的に以下のプロセスを経て締結されます。

  1. 基本合意書の締結:本格的な交渉に先立ち、譲渡価格の目安や交渉のスケジュールなど、基本的な条件について合意し、基本合意書を締結します。
  2. デューデリジェンス(DD)の実施:買い手が、弁護士や会計士などの専門家を通じて、対象会社の財務・法務・税務などの状況を詳細に調査します。
  3. 契約書のドラフト作成・交渉:DDの結果を踏まえ、買い手側が株式譲渡契約書の初版(ドラフト)を作成し、売り手側に提示するのが一般的です。その後、双方が代理人の弁護士を交えながら、条文の修正や追加を重ねて交渉を行います。
  4. 株式譲渡の承認手続き(譲渡制限株式の場合):日本の中小企業の多くは、定款で株式の譲渡を制限しています。 この「譲渡制限株式」を譲渡する場合、会社の承認(取締役会または株主総会の決議)が必要です。 契約締結前に承認を得るか、承認を得ることをクロージングの前提条件とします。
  5. 契約書の締結:双方が内容に合意したら、契約書に署名・捺印して契約を締結します。
  6. クロージング:契約書で定められた日に、買い手は譲渡代金を支払い、売り手は株券(株券発行会社の場合)や名義書換に必要な書類を引き渡し、取引を完了させます。

株式譲渡契約書と印紙税について

株式譲渡契約書そのものは、印紙税法上の課税文書に該当しないため、原則として収入印紙を貼る必要はありません。 契約金額がいくらであっても非課税です。

ただし、例外的に印紙が必要になるケースがあります。それは、契約書に「譲渡代金〇〇円を本日確かに受領しました」といったように、代金を受け取った事実を記載した場合です。 この場合、その契約書は金銭の受取書(領収書)としての性質も持つことになり、「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」(第17号文書)として印紙税の対象となります。 トラブルを避けるため、代金の受け渡しは銀行振込で行い、契約書とは別に領収書を発行するのが一般的です。

会社売却の価格が適正か不安な方へ

株式譲渡契約書の交渉を進める上で、自社の価値を正しく把握しておくことは非常に重要です。譲渡価格はもちろん、表明保証や補償条項の交渉においても、自社の適正な価値が基準となります。

「自社の会社や事業がいくらで売れるのか」という相場観を知りたい方は、まず専門のサービスで簡易診断をしてみることをお勧めします。以下のページでは、匿名・無料で自社の売却相場を把握することができます。

会社・事業の売却相場診断(NexoValueの自社ページ・無料)

まとめ

株式譲渡契約書は、中小企業のM&Aを成功させるための根幹となる文書です。ひな形を参考にしつつも、表明保証や競業避止義務といった重要条項については、自社の状況に合わせて専門家と相談しながら慎重に内容を検討する必要があります。 特に、買い手にとってはデューデリジェンスで見抜けなかったリスクをカバーする最後の砦であり、売り手にとっては譲渡後の予期せぬ責任を回避するための重要な盾となります。契約書の各条項が持つ意味を正しく理解し、納得のいく形でM&Aを完結させるために、弁護士などM&Aの実務に詳しい専門家のアドバイスを受けながら進めることが不可欠です。

関連記事

関連記事

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です